群馬県立産業技術センター

Gunma Industrial Technology Center

繊維工業試験場 中期ビジョン

1.基本構想

1.1 マニフェスト

繊維工業試験場は、これまで県内繊維産業の振興を第一使命と考えて支援活動を続けてきたが、現在では全国唯一の繊維の専門機関として残る状況となっている。こうした状況から、県内繊維企業の振興を最優先としつつも、全国の企業から寄せられる繊維関連の相談にも対応すべき立場となっている。
 また、持続可能な開発目標(SDGs)を中核とする「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の採択を受け、群馬県でもSDGsの達成に向けた動きが活発化している。そこで当試験場としては、「8.働きがいも経済成長も」、「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」を柱とし、「12.つくる責任つかう責任」などを目標として取り組む必要がある。
 こうした状況を踏まえて、全国唯一の繊維専門の公設試験研究機関として群馬県と全国の繊維関連産業の発展に寄与するとともに、群馬県としてのSDGs達成に向けた取り組みの一翼を担うため、以下のマニフェスト十箇条を掲げる。

マニフェスト十箇条

県内と全国の繊維産業の良きアドバイザーになります

ニーズとシーズを繋ぐ産学官連携のハブ拠点になります

伝統技術を理解して活かし、新製品の開発に応用します

次世代産業の構築を目指し、学際的研究を推進します

繊維技術を応用し、広く他業種の産業振興に貢献します

信頼性のある依頼試験・分析と依頼加工を実施します

利用満足度の高い丁寧な技術相談対応を行います

繊維のキュレーターとして、情報を収集・発信します

環境に配慮したサスティナブル産業への移行を支援します

製品の地域ブランド化とデザイン力の強化に取り組みます

1.2 繊維産業が抱える課題と今後の展望

我が国の繊維産業の状況は、製品出荷額が1991年をピークに2018年には3分の1以下となり、90年代以降は輸入浸透率が増加し、2017年には数量ベースで97.6%(金額ベースは2015年で77.7%)に達している。こうした閉塞的な国内状況を打破するためには、新たなプレミアム価値によって国内市場を拡大することが必要不可欠であり、そのための革新的技術が強く要望されている。
一方、グローバルな経済状況としては、繊維製品の市場はアジアを中心に今後も成長が見込まれており、この海外市場の拡大を積極的に取り込むことが今後の繊維産業の生き残りにとって重要な鍵となる。海外販路の開拓のためには、製品の魅力を向上させることが必要である。本県の繊維産業においては、長年にわたって築き上げてきた素材と染織技術を活用し、伝統と文化に裏打ちされた製品の地域ブランド化が課題である。
 我が国の産業構造は時代の変遷とともに変化してきており、かつては主要な輸出品であった家電製品等の勢いが衰え、代わりに食などの文化的要素、地域性や独自色の強い商品の輸出に活路を見いだしつつある。こうした状況変化を考えると、文化に深く根ざした本県の繊維製品が、再びグローバル市場で脚光を浴びる可能性は十分にある。そのためには、県内繊維産業のブランド化を成功させ、技術における『伝統』の継承と『革新』の二刀流を磨く必要がある

1.3 これまでの繊維工業試験場の取り組み

本県の基本方針である第15次群馬県総合計画「はばたけ群馬プラン2」では、基本目標として「恵まれた立地条件を活かした産業活力の向上・社会基盤づくり」が掲げられている。その実現には「産業振興による雇用の維持・創出」が重要な要素であり、既存産業の振興とともに、今後成長が期待される次世代産業の創出・育成に取り組むとしている。
本県総合計画に示された基本方針に従って、当試験場では従来のものづくり産業・地場産業の振興とともに、医療・ヘルスケア分野、環境・新エネルギー分野等の次世代産業の創出・育成にも取り組んでいる。
ものづくり産業・地場産業の振興策としては、「連携によるイノベーション創出」をキーワードとして、平成29年度に整備したオープンイノベーションルームの活用により、産学官連携および異業種交流を推進している。また、伝統的な織物産地の振興策としては、本県の特産品である絹の需要増進を目的として、「ぐんまブランド絹製品開発・販売支援プロジェクト」等を実施し、製品開発および販路拡大に取り組んでいる。
次世代産業の創出・育成については、医療・ヘルスケア分野における設備として無菌的な環境を提供できるクリーンルームを新設し、「群馬がん治療技術地域活性化総合特区」施策の一環として繊維産業の医療・介護分野への参入を推進している。環境・新エネルギー分野では、繊維技術によって地球温暖化等の環境問題に対応するため、極限環境を再現できる人工気象室を整備して熱中症対策等の新規分野への進出支援を図っている。

2.基本計画

2.1 研究開発

「研究開発」は、企画段階から当試験場が参加し、企業・大学等との連携体制によって推進する共同研究を指し、経費負担の形態によって公募型共同研究、外部資金研究、研究開発推進費研究およびその他の共同研究に分類される。

1.公募型共同研究
公募した研究課題について企業と群馬県が経費を半額ずつ負担して行う共同研究
2.外部資金研究
外部機関が提供する競争的資金を利用して行う共同研究
3.研究開発推進費研究
群馬県が用意する競争的資金を利用して産官学等の連携体制で行う共同研究
4.その他の共同研究
当試験場および企業・大学等の参画機関が必要経費を各自負担して行う共同研究

運営方針

当試験場は、全国唯一の繊維専門の試験研究機関として、研究開発のハブ拠点となって繊維産業の活性化を目指す。そのために、伝統技術の活用と次世代産業分野への展開を二つの軸として県内企業の新技術・新製品開発を支援する。
伝統技術を活用した研究開発としては、シルク関連産業の創出につながるシルク製品開発、伝統織物の新たな用途展開を目指した開発等に取り組む。また、地域ブランド化による地域振興、伝統技術の継承推進、世界遺産登録に関連した製品開発等の支援を行う。
次世代産業分野の研究開発としては、健康科学分野、環境・新エネルギー分野、感覚計測分野、快適性評価分野、デジタル技術分野(IoT, AI, ビッグデータ, ウエアラブル)等に展開し、繊維材料を取り扱う他産業とのオープンイノベーションを支援する。これらの研究開発では、近年に整備したクリーンルーム、人工気象室、風合い試験機システム、糸コーティング機、転写捺染機等を有効利用する。

目標・指標(KPI)

本計画における研究開発に関する指標としては、「特許等出願」件数および「共同研究」件数を設定し、目標件数の達成を目指すとともに研究開発能力の向上に努める。
「特許等出願」は前期計画においても設定され、目標値を達成してきたところである。本計画では前記計画の実績をもとにさらに高い目標を設定している。
「共同研究」は公募型共同研究、外部資金研究など企業や大学等と共同で行う研究として定義される。本計画では研究開発の実働に即した指標として、「共同研究」件数を新たな目標値に設定する。本計画の最終年度(令和4年度)では、前記計画の実績を基に、さらに増加を目指す目標値に設定している。

特許等出願、共同研究件数および目標値

指標平成29年度平成30年度令和元年度令和4年度
特許等出願1件3件1件
目標値6件/3年間6件/3年間6件/3年間4件
共同研究14件17件12件
目標値17件

2.2 技術支援

「技術支援」は、企業からの依頼に対応して行う当試験場の基本的業務であり、主な業務内容として技術相談、依頼試験・依頼加工および受託研究がある。

1.技術相談
 技術課題を解決するための情報提供・原因究明・対処方法の検討に関する相談
2.依頼試験・依頼加工
品質証明・機能性評価等の各種試験・分析および編織物製造に関する各種加工
3.受託研究
企業からの要望に応じて受託して行う製品試作・各種特性評価等に関する研究

運営方針

当試験場は、桐生の地において、地域繊維企業と顔の見える関係を築いており、親切丁寧な対応が強みとなっている。今後も繊維専門の試験研究機関として、きめ細かな対応に万全を期していく。
また、当試験場を利用したことのない繊維企業にとどまらず、他産業分野の関連企業の開拓に取り組むため、企業訪問を積極的に実施して新たな利用者の増加を図る。

目標・指標(KPI)

本計画における技術支援に関する指標としては、「技術相談」件数と「依頼試験等収入」金額を設定する。
「技術相談」件数は前期計画においても設定され、目標値を上回る実績を残してきたところである。本計画の最終年度(令和4年度)では、さらに高い目標値を設定し、件数としての目標達成とともに業務の質的向上に努める。

「受託研究等収入」金額は技術支援に関する収入であり、依頼試験・依頼加工、受託研究および公募型共同研究の企業負担分の合計とする。本計画では、前期計画の実績をもとに一定レベルの目標値を設定し、収入を維持するとともに業務の質的向上に努める。

技術支援の目標・指標(KPI)

指標平成29年度平成30年度令和元年度令和4年度
技術相談4,167件4,348件4,260件
目標値3,400件3,600件3,800件3,900件

「受託研究等収入」金額は技術支援に関する収入であり、依頼試験・依頼加工、受託研究および公募型共同研究の企業負担分の合計とする。本計画では、前期計画の実績をもとに一定レベルの目標値を設定し、収入を維持するとともに業務の質的向上に努める。

受託研究等収入の目標・指標(KPI)

指標平成29年度平成30年度令和元年度令和4年度
受託研究等収入10,913千円12,618千円14,480千円
目標値13,000千円

2.3 商品化支援

本計画の初年度には東京オリンピック・パラリンピックが開催され、地域ブランド化による地域振興の機運が高まっている。こうした状況を繊維産業に吹く追い風と捉え、群馬県らしさや産地の魅力を発信できるプレミアム価値製品の開発とその商品化支援に取り組む。

1.オープンイノベーション
オープンイノベーションルームの活用による他業種・成長企業との協業・連携の推進
2.外部支援機関との連携による商品化相談
中小企業基盤整備機構等との連携によるブランド化、商品力・デザイン力強化、EC活用、海外展開等の相談対応および専門アドバイザーの紹介
3.各種補助金の利用支援
商品開発に利用可能なものづくり補助金等の申請支援

運営方針

プレミアム価値創造による商品化支援としては、これまでの主流であった自前主義から脱却し、社外の他業種・成長企業との協業・連携によってイノベーションを創出するオープンイノベーションの推進に努め、その場と機会の提供を図る。
当試験場にマーケティング・ブランディング・デザインの専門家がいない弱点については、「人材育成」と連動した外部支援機関との連携で補い、「研究開発」・「技術支援」と併せた総合的な商品化支援に努める。

目標・指標(KPI)

商品化支援に関する指標としては、「商品化支援」件数を設定する。本指標は前期計画においても設定され、目標値を達成してきたところである。本計画では、前記計画の実績をもとにさらに高い目標値を設定した。

商品化支援の目標・指標(KPI)

指標平成29年度平成30年度令和元年度令和4年度
商品化支援5件4件2件
目標値10件/3年間10件/3年間10件/3年間6件

2.4 人材育成

 「人材育成」は、県内繊維業界で働いている人に、基本的な専門技術や新素材・新技術の知識を習得してもらうため、講演会・研修を提供することが主な業務である。その他、繊維産業の将来を担う学生に繊維技術を知ってもらうことで、繊維業界への就職を促進し、人手不足・後継者不足にともなう技術・事業継承問題にも対応する。また、産業振興には技術面だけでなく販売促進も重要であるため、そのヒントとなる講演会を開催する。

1.講演会
繊維関連の新素材・新技術の関する技術講演会およびマーケティング・ブランディング・デザイン等の販売促進に関する講演会の開催
2.専門技術研修・受託研修
保有設備を活用した実践的な専門技術研修および企業ニーズに合わせたオーダーメイドの研修プログラムによる受託研修
3.インターンシップ事業
繊維産業での就業に対する関心喚起を目的に、大学・高等学校等の学生を研修生としてものづくり現場の魅力を体験してもらう実習
4.講師派遣
繊維関連の知識・技術の普及を目的とした講演・セミナー・実習等への講師派遣

運営方針

従来の「人材育成」の主な目的は、生産現場で働く技術系人材を対象として、繊維製造工程に必要な知識・技術の基礎づくりを支援することであった。本計画の「人材育成」では、技術系以外の人材にも対象を広げ、経営者から学生までの様々な階層向けに内容の充実を図ることにより、繊維産業振興に資する総合的な人材育成を展開する。
経営者および営業担当の人材向けには、外部支援機関との連携により、EC事業や海外展開に対応した講演会等の企画を用意して地域企業の販売力強化に取り組む。
繊維産業への就業を志す大学・高等学校等の学生向けには、糸から布を作る全工程の製造機械と品質評価試験機を保有する当試験場の特徴を活かし、ものづくり現場の魅力を体験してもらう企画を充実させる。

目標・指標(KPI)

本計画における人材育成に関する指標としては、「研修・講演会」件数を設定し、前期計画の実績をもとに一定レベルの件数を維持することに努める。

人材育成の目標・指標(KPI)

指標平成29年度平成30年度令和元年度令和4年度
研修・講演会10件11件9件※
目標値10件11件10件10件

※令和1年度は10件の予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、3月9日開催予定の研究発表会、講演会の中止により9件となった。

2.5 情報提供

「情報提供」は、当試験場の活動を関係企業等に知ってもらうことが従来の主目的であり、Webページ、Fax・メール会員向け情報紙(せんい技術情報)、口頭による研究発表、刊行物による研究報告およびマスコミュニケーションを通じて行う。また、全国唯一の繊維専門の公設試験研究機関として、県内繊維企業にとどまらず、海外も含めた広域の企業と幅広い利用者向けに、ソーシャルネットワークサービス(SNS)、外部支援機関が運営するビジネスマッチングサイト等を利用した情報の発信・受信を行う。

1.Webページ
講演会・研究発表会の案内および所有する設備・機器等の紹介
2.Fax・メール会員向け情報紙(せんい技術情報)
研究開発の事例、新規導入の設備・機器および専門技術研修等の人材育成事業に関する紹介
3.研究発表
当試験場が年一回開催する研究発表会および学会等での口頭発表
4.業務報告
当試験場が年一回刊行する業務報告および学会誌等での研究報告
5.マスコミュニケーション
新聞、テレビ、ラジオを通じた講演会・イベント等の広報
6.SNS
インスタグラム・ツイッター等による各種情報の発信・受信
7.ビジネスマッチングサイト
中小企業基盤整備機構が運営するビジネスマッチングサイト「ジェグテック」等による各種情報の発信・受信

運営方針

これまでの「情報提供」では当試験場の活動や研究成果等を県内繊維企業向けに発信してきたが、本計画では新たな取り組みとして、広域の企業と幅広い利用者を対象とした情報の発信・受信を実施する。これにより多様な業種・企業とのネットワークを形成し、オープンイノベーションによる県内繊維産業の活性化を図る。
情報取得ツールがインターネットからSNSに切り替わった世代には、インスタグラム・ツイッター等を利用して情報の発信・受信を行い、産地の魅力発信と若手技術者・若手クリエーターの呼び込みによる活性化に繋げる。
また、中小企業基盤整備機構が運営するビジネスマッチングサイト「ジェグテック」等を活用し、当試験場の専用ページで情報発信するとともに、企業に代わってニーズ情報の確認およびニーズ発信を実施する。

3.本計画の目標と効果検証

本計画の目標は、最終年度の目標・指標(KPI)として前述したが、初年度・次年度の目標・指標(KPI)についても下記のように設定し、最終目標の達成につなげる。
また、本計画の効果検証として、目標・指標(KPI)による進捗評価を補完するため、顧客満足度調査を実施する。

3.1 各年度の目標・指標(KPI)

各年度の目標値は、最終年度の目標に到達するための段階的な目安として下表のように設定する。

各年度の目標・指標(KPI)

指標令和2年度令和3年度令和4年度
共同研究15件16件17件
特許等出願2件3件4件
技術相談3,800件3,850件3,900件
受託研究等収入12,000千円12,500千円13,000千円
商品化支援4件5件6件
研修・講演会10件10件10件

※受託研究等収入は依頼試験、依頼加工、受託研究および公募型共同研究の企業負担分の合計
※研修、講演会は技術研修、受託研修および講演会の合計

3.2 顧客満足度調査

目標・指標(KPI)による事業評価を補完し、その結果を当場の運営にフィードバックするため、「繊維工業試験場利用に関するアンケート調査(CS調査)」を実施する。
アンケートは、依頼試験、依頼加工、技術相談の利用者に対して実施し、目的の達成度および満足度等について調査する。

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